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東京地方裁判所 昭和60年(特わ)3009号 判決

本籍

東京都町田市図師町一五九七番地

住居

右同所

テニスクラブ経営

若林文雄

昭和一六年一一月二八日生

右の者のに対する相続税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官櫻井浩出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を罰金一八〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都町田市図師町一五九七番地においてテニスクラブを経営し、昭和五七年六月一七日実父懿の死亡により同人の財産を他の相続人と共同相続した者であるが、北村龍夫及び仲吉良二に対し自己の相続税の申告を委任したところ、右両名において、被告人の財産に関し、架空の連帯保証債務を計上して課税価格を減少させる方法により被告人の相続税を免れようと企て、同年一二月一六日、同都町田市中町三丁目三番六号所在の所轄町田税務署において、同税務署長に対し、被相続人若林懿の死亡により同人の財産を相続した相続人全員分の正規の相続税課税価格は三億三四九二万七〇〇〇円で、このうち被告人分の正規の課税価格は二億五六二〇万三〇〇〇円であった(別紙(1)、(2)相続財産の内訳及び別紙(3)脱税額計算書参照)のにかかわらず、右懿には一億九五〇〇万円の連帯保証債務があり、これを被告人において負担することとなったので、取得財産の価額から控除すると、相続人全員分の相続税課税価格は一億四四四一万一〇〇〇円で被告人分の課税価格は六五六七万七〇〇〇円となり、これに対する被告人の相続税額は一七四九万八〇〇〇円である旨の嘘偽の相続税申告書(昭和六〇年押第九三八号の2、3)を被告人の代理人として提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告人の正規の相続税額一億六一三万八二〇〇円と右申告税額との差額八八六四万二〇〇円(別紙(3)脱税額計算書参照)を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書三通

一  仲吉良二(二通・謄本)、若林工義、掘尾功(謄本)、佐藤久光(謄本)の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の調査書(いずれも謄本)

連帯保証債務調査書

現金・預金調査書

家具その他調査書

未払公租公課調査書

未払医療費調査書

葬式費用調査書

土地建物調査書

一  押収してある被告人の相続税申告書一袋及び同訂正申告書一袋(昭和六〇年押第九三八号の2、3)

(法令の適用)

被告人の判示所為は相続税法七一条一項、六八条一、二項に該当するので、その罰金額の範囲内で、被告人を罰金一八〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、注文のとおり判決する。

(量刑の理由)

本件は、多額の相続税の納付に苦慮していた被告人が、納税資金捻出のため土地の一部を売渡した不動産業者の紹介で、同和団体を標榜する職業的脱税請負グループの北村龍夫らを知り、同人から相続税を安くしてやると持ちかけられるや、たやすくこれを受け入れ、同人らに相続税の申告手続を依頼し、同人らのなすがままに任せた結果、多額の脱税行為を惹起させるに至ったもので、被告人の北村らに対する代理人選任、監督上の落ち度は小さくないこと、本件ほ脱のため不正行為の態様は大胆悪質であること、ほ脱額も多額でその割合は八〇パーセントを超えていることなどを考えると、被告人の刑事責任は軽くないといわなければならないが、他方、被告人は本件に関し北村らに報酬として約六〇〇〇万円を領得され、本件は同人らの手数料稼ぎに利用された面が強いこと、被告人は本税を既に納付し、延滞税、加算税はこれを早急に納付すべく努力していること、被告人には前科前歴はなく、反省の態度が顕著であることなど被告人に有利に斟酌すべき事情も存し、これらを総合勘案して、注文の罰金額を量定した次第である。

(求刑 罰金三〇〇〇万円)

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 田尾健二郎 裁判官 鈴木浩美)

別紙(1) 相続財産の内訳

総額分

昭和57年6月17日

〈省略〉

別紙(2) 相続財産の内訳

若林文雄分

昭和57年6月17日

〈省略〉

別紙(3) 脱税額計算書

〈省略〉

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